この事例のポイント
- 同じ一脚でも本革の面とファブリックの面では汚れの残り方が違うため、素材ごとに扱いを分けています
- 素材が切り替わる境目には縫い目やわずかな段差があり、布やノズルが面で当たりにくい場所です
- 境目を跨いで一気に作業せず、素材ごとに区画を切って手を止める進め方をとりました
コンビネーションシートは、1脚のなかに2つの素材があります
今回お預かりしたのは日産 フェアレディZで、シートはコンビネーションシートです。本革とファブリックが組み合わされた作りで、離れて見ているぶんには一枚の面のように見えます。ところが手のひらを滑らせていくと、途中で表面の性質が変わります。片方は指がつるりと滑り、もう片方は繊維の目に指先がわずかに引っかかります。同じ一脚のなかでこれだけ手応えが違うのですから、汚れの乗り方も、拭いたあとの戻り方も、同じようには扱えません。
シートコーティングを調べていると、レザー向けの案内とファブリック向けの案内が別々に並んでいることがあります。コンビネーションシートで考えるべきなのは、その2つが別々のシートにあるのではなく、1脚のなかで隣り合っているという点です。境目をどこに置くか、境目で何を変えるかが、そのまま作業の組み立てになります。
この記事では、施工全体を順に追うのではなく、素材が混ざっているという条件だけを取り出して、どこに気を使ったのかを書きます。車種の話としてではなく、同じようにコンビネーションシートを使っている方の判断材料になればと考えています。
素材が違えば、汚れの残り方も違います
本革の面では、こぼれたものや手から移る油分が、まず表面に乗ります。気づいた時点で表面を拭えば収まることが多い一方、そのまま日が経つと表面を拭くだけでは追いつかなくなっていきます。ファブリックの面は入り口が違い、液体が繊維のあいだへ落ちていきます。表面をなでても手応えがないのに、乾いたあとになって輪の形で見えてくるのは、こちら側で起きていることです。
つまり、同じ飲み物を同じようにこぼしても、その後の見え方は素材で分かれます。片方は表面に、もう片方は内側に残る。ひとつのシートで両方が起こりうるので、お手入れの手順も施工の手順も、一本にまとめずに分けたほうが素直です。
Starex について(公式情報)
耐久性については、Starex公式情報によれば、専門機関の摩擦テスト(1万回以上)で『1日10回の乗り降りで約3年間相当』という結果が示されています。また、Starex公式情報によれば、『こども玩具用 食品分析検査基準』をクリアした水性・低臭の処方です。
水性と油性の違いは水性コーティングと油性コーティングの違い、軽自動車のシート保護は軽自動車のシート保護ガイド、資産として維持する観点は資産価値と内装ケアで整理しています。
いちばん気を使うのは、素材が切り替わる境目です
本革とファブリックが出会うところには、たいてい縫い目があります。糸が通り、革の端が折り返され、あいだにパイピングが挟まれていることもあります。平らな面から見ればわずかな段差ですが、この段差があるだけで、道具の当たり方が変わります。布もスポンジも面で当たらず、境目の手前で力が抜けます。掃除機のノズルも、溝の底までは素直に入りません。
座っているあいだ、人の身体はこの境目の上を通ります。乗り降りのたびに衣類が擦れ、手が触れ、こぼれたものは低いほうへ流れていきます。集まりやすい場所であるのに、道具がいちばん届きにくい。境目を先に見るようにしているのは、この食い違いがあるからです。
ステッチに沿って線が出てくることがあります
縫い目まわりに残ったものは、点ではなく線の形で見えてきます。糸目という決まった道筋があるので、そこに沿って濃さが揃ってしまうためです。面の中央がきれいでも、境目に線が走っていると、シート全体の印象がぼやけて見えます。逆に言えば、境目が整っていれば、多少の使用感があっても落ち着いて見えます。
状態を確認するときは、正面からだけでなく、光を斜めから当てて縫い目を追います。線として見えるものが、表面に乗っているだけなのか、糸や織り目のなかまで入っているのかで、その先の手当てが変わってきます。
日常のお手入れでも、手が止まる場所です
ご自身で拭くときも、境目は往復の折り返し地点になりやすい場所です。面を拭いてきて、段差にあたって向きを変える。その繰り返しのなかで、拾ったものが境目の際に置き直されていくことがあります。悪いことをしているわけではなく、道具の形と段差の関係でそうなりやすい、というだけの話です。
だからこそ、施工の段階で境目をどう仕上げておくかが、その後の拭きやすさに関わってきます。境目が滑らかであれば布が引っかからず、面の側から素直に動かせます。
素材ごとに、変えたことと変えなかったこと
今回はStarexの水性シートコーティングを施工しました。下地づくりでは、本革側とファブリック側で道具と水気の扱いを分けました。ファブリックの面に水気を多く残すと、乾いていく過程で縁に跡が出ることがあるため、こちらは含ませる量を控えて、面ごとに区切って進めます。本革側は表面に乗っているものを起こしてから拾う流れになるので、同じ布で続けて使わず、こまめに持ち替えます。素材を跨いで同じ道具を使い回さないというのが、まずいちばん単純な線引きです。
使うコーティング剤そのものを素材ごとに切り替えるわけではありません。変わるのは、当て方、量、そして手を止める位置です。同じ一脚でも面の性質が違えば、液の入り方も違います。均一に見せようとして同じ動作を通すと、かえって片方に寄ってしまうことがあります。
境目に薬剤や水分が溜まったまま乾くと、縁だけが目立って見えることがあります。そこで境目では量を控え、糸目に沿って伸ばす方向を揃えました。境目を跨いで一気にストロークを通したい場面でも、区画で手を止めて、素材が変わったところで改めて始めます。手数はかかりますが、あとから境目だけ直すのは難しいので、この順番を崩さないようにしています。
境目は、素材の側から寄せていきます
境目そのものから塗り始めるのではなく、面の中央側から境目に向かって寄せていく形をとります。縫い目の溝を出発点にすると、そこに液が集まりやすくなるためです。面から寄せてくると、境目に届いたところで自然に量が減ります。左右の素材それぞれから寄せて、縫い目の上で無理につなげないという進め方です。
仕上がりの狙いは、境目が一本の線として素直に見えている状態です。境目が消えることを目指しているわけではありません。もともとの作りとして線があるものなので、その線を濁らせない、というのが基準になります。

仕上がりの確認は、質感の差が残っているかで見ます
施工後の確認で見ているのは、全体につやが乗ったかではありません。本革の面は本革の落ち着いた見え方、ファブリックの面は繊維らしいマットな見え方が、それぞれ残っているかどうかです。両方が同じ光り方に寄ってしまうと、コンビネーションシートとしての作りが崩れて見えます。素材が違うものを、違うまま整えるという考え方です。
つやの切り替わる線が、施工前と同じ位置・同じ強さで見えているかも合わせて確認します。境目のどちらか一方に液が寄っていると、線の太さが場所によって変わり、それが違和感として残ります。正面から一度、斜めから一度、席に座る高さからもう一度、位置を変えて見ます。
手のひらで境目をなでて確かめます
目で見るだけでなく、手のひらで境目を横切るようになでます。確かめたいのは、段差の手応えが施工前と変わっていないか、縫い目の上でざらつきや硬さが出ていないかという点です。触ったときに引っかかりがあると、その後の拭き取りでも布が止まります。
座面から背もたれ、背もたれから肩まわりへと、境目が続いている方向に沿って手を移していきます。素材が切り替わっている箇所は一脚のなかに何本もあるので、一箇所ずつではなく線として追ったほうが取りこぼしが少なくなります。
お引き渡し後、境目まわりのお手入れについて
施工したあとも、境目は汚れが集まりやすい場所であることは変わりません。狙っているのは、集まったものが素材の奥へ入り込みにくくなり、乾いた布で拾える範囲に留まりやすくなることです。汚れが付かなくなるわけではないので、気づいたときに軽く拾っていただくのが前提になります。
拭くときは、境目を横切って往復するのではなく、縫い目に沿って一方向に動かすと、拾ったものを境目の際に押し戻しにくくなります。ブラシを強く当てるのは避けてください。飲み物をこぼしたときは、まず境目に流れ込む前に面の側で吸い取るほうが、あとの手間が少なくなります。ファブリック側は押し当てて吸い取る、本革側は表面を拭う、と動作を分けていただくと分かりやすいと思います。
気になる箇所が出てきた場合も、素材を跨いで一度に処理しようとせず、どちら側の話なのかを分けてからご相談いただけると、こちらでも状態を追いやすくなります。ご自身で判断がつかないときは、そのままの状態で見せていただくほうが確認しやすい場面もあります。
よくある質問
Q. コンビネーションシートは、素材ごとに別の施工になるのですか
A. 使うコーティング剤を素材ごとに入れ替えるわけではありませんが、下地づくりで使う道具、水気の扱い、塗り広げる方向と量は素材ごとに分けて進めます。同じ一脚でも面の性質が違うため、同じ動作を通すと片方に寄ってしまうことがあるという考え方です。
Q. 素材が切り替わる境目やステッチの部分も施工の対象になりますか
A. 対象に含めています。ただし境目は縫い目の溝があり、液が溜まったまま乾くと縁が目立って見えることがあるため、面の中央側から境目に向かって寄せていき、境目では量を控えるようにしています。境目を跨いで一気に動かすことはしません。
Q. 本革の部分とファブリックの部分で、仕上がりの質感は変わりますか
A. 変わりますし、変わったままであることを狙っています。両方が同じ光り方に寄ってしまうと、コンビネーションシートとしての作りが崩れて見えます。本革は落ち着いた見え方、ファブリックは繊維らしいマットな見え方が残っているかを確認して仕上げています。
Q. ファブリックの部分だけ、あるいは本革の部分だけをお願いすることもできますか
A. ご相談は承ります。一方だけを施工した場合、境目で見え方や手触りの差が出る可能性があるため、現車を拝見して境目の走り方を確認したうえでご案内します。素材の切り替えがどこを通っているかで、判断が変わることがあります。
Q. 施工後の日常のお手入れでは、境目をどう扱えばよいですか
A. 乾いた柔らかい布で、縫い目を横切って往復するのではなく、縫い目に沿って一方向に動かしてください。ブラシを強く当てるのは避けます。こぼしたときは境目に流れ込む前に面の側で吸い取り、ファブリック側は押し当てて吸う、本革側は表面を拭う、と分けていただくと扱いやすくなります。
コンビネーションシートのご相談を承っています
車のお手入れ専門店 エコスタイル熊本(熊本県)
1脚に複数の素材が使われているシートは、境目の走り方や現状によって進め方が変わります。気になる箇所がある段階でご相談いただければ、現車を拝見したうえでご案内します。
※ 掲載しているのは実際の施工事例です。施工の可否・範囲・所要時間・料金は、車種と素材の状態、および施工店によって異なります。詳細は施工店へお問い合わせください。
