ヌバック調のベルベットのような起毛表面

ヌバックとは|スエードとの違いと車シートの手入れ

ヌバックとは、革の表側(銀面)を細かいサンドペーパーで短く起毛させた起毛革のことです。ただし、裏側(肉面)を起毛させたスエードとは性質も手入れの勘所が少し違い、車のシートでは「本革のヌバック」か「ヌバック調の合成皮革・布地」かで扱い方が分かれます。この記事では、ヌバックの定義、スエードとの違い、見分け方、弱点、手入れの手順、車のシートで気をつける点を解説します。

急いでいる人向けに結論を先に言うと、ヌバックのシートは「濡らさない・こすらない・乾いたままブラシで払う」が基本で、クリームやオイル、濡れタオルは使いません。防水スプレーは車内では自己判断で使わず、製品の注意書きと車の取扱説明書を確認してからにします。

この記事のポイント

  • ① ヌバックは銀面(革の表側)を起毛させた革。スエードは肉面(裏側)を起毛させた革で、起毛させる面が違う
  • ② 起毛の凹凸にほこり・水・皮脂が入り込みやすく、毛が寝るとテカリやシミとして残る
  • ③ 手入れは「乾いたままブラシで払う」が基本。クリーム・オイル・濡れタオルは使わず、防水スプレーは車内では自己判断で使わない

ヌバックとは|銀面を起毛させた革

一般社団法人日本皮革産業連合会(JLIA)の皮革用語辞典では、ヌバックは「皮革の銀面(表面)を目の細かいサンドペーパー等でバフィングし、短く毛羽立たせて仕上げた起毛革」と定義されています。バフィングとは表面を削って毛羽立たせる加工のことで、銀面とは動物の皮の本来の表側、つまり毛穴やシボ(細かいしわ模様)がある面のことです。この銀面を軽く削って毛羽立たせるため、ヌバックの表面はビロードやピーチスキン(桃の皮)にたとえられる、毛足の非常に短いしっとりした手触りになります。

タンナー(皮革製造業者)である株式会社山陽の解説によると、ヌバックは子牛革でも成牛革でも同じく「ヌバック」と呼ばれ、表側を起毛させているため、革としては両面が毛羽立った状態になります。原料の動物で呼び名が変わるスエードやベロアと違い、ヌバックは「銀面を起毛させた革」という加工方法で決まる名前です。

同じ JLIA の用語辞典によると、ヌバック(Nubuck)という名前は、雄鹿の革を同じように仕上げた「バックスキン」に似ていることに由来し、靴の甲革やバッグ、衣料に使われてきました。車の内装では、一部の車種やカスタム内装で採用されています。

ヌバックとスエードの違い|起毛させる面が違う

ヌバックとスエードは、どちらも表面を毛羽立たせた「起毛革」ですが、起毛させる面が正反対です。ヌバックは革の表側である銀面を起毛させ、スエードは肉面(革の裏側。床面とも呼びます)を起毛させます。JLIA の用語辞典では、スエードは「子牛皮、ブタ及びヒツジやヤギなどの小動物の皮を原料として銀付き革の肉面の表面をサンドペーパーで毛羽をそろえた起毛革」とされ、成牛など大判の革の肉面を起毛させたものは「ベロア」と呼び分けられています。

項目ヌバックスエードベロア
起毛させる面銀面(表側)肉面(裏側)肉面(裏側)
主な原料子牛・成牛(どちらもヌバックと呼ぶ)子牛・豚・羊・山羊など小動物の皮成牛など大判の革
毛足非常に短い短く緻密スエードよりやや長い
手触り・見た目ビロード状・ピーチスキンのようにしっとり柔らかく温かみがある毛足が長く粗めの風合い
銀面の状態削られて残っている(毛穴やシボの名残が見える)裏面なので銀面はない裏面なので銀面はない
主な用途靴・バッグ・衣料・一部の車の内装靴・衣料・小物靴の甲革など

表のとおり、ヌバックは「表側を削った革」、スエードは「裏側を起こした革」です。ヌバックには銀面の毛穴やシボの名残があり、スエードにはありません。この違いが見分け方と手入れの力加減につながります。起毛していない通常の本革については、ナッパレザーとは|本革・セミアニリンとの違いで解説しています。

ヌバックとスエードの革サンプルの質感比較
短く細かな起毛(ヌバック)と、やや毛足の長い起毛(スエード)の質感の違い(イメージ)

ヌバックとスエードの見分け方

見分けるポイントは「毛足の長さ」「表面の模様」「裏側」の3つです。専門店でなくても、次の順番で確かめれば大まかに区別できます。

  1. 指の腹で軽くなでる:ヌバックは毛足が非常に短く、ビロードのように滑らかでしっとりした感触です。スエードは毛足がやや長く、ふわっとした起毛感があります。ベロアはさらに毛足が長く粗めです。
  2. 明るい場所で表面をよく見る:ヌバックは銀面を削っているため、毛穴やシボ(革本来のしわ模様)の名残がうっすら見えることがあります。裏面を起毛させたスエードには、こうした模様は基本的にありません。
  3. 裏側や端が見えるなら確認する:本革のヌバックは表も裏も毛羽立っています。裏側が布地や樹脂なら、本革ではなく「ヌバック調」の合成皮革やファブリックです。

車のシートでは裏側を確認できないため、取扱説明書やカタログの「シート表皮」欄で素材名を確認するのが確実です。「ヌバック調」「スエード調」と書かれていれば、本革ではなく合成皮革や布地です。起毛タイプの人工皮革の代表格であるアルカンターラについては https://www.starex-solutions.jp/archives/14124 で解説しています。

ヌバックの弱点|汚れ・水・皮脂に弱い理由

ヌバックが汚れ・水・皮脂に弱いのは、表面が細かい毛の集まりでできているからです。起毛による細かな凹凸にはほこりや砂が入り込みやすく、放置すると汚れの付着や色のくすみにつながります。ほこりは起毛の内側にまで入り込むため、表面をさっと拭くだけでは取り切れないのが起毛革の特徴です。

  • 汚れ:毛と毛のすき間にほこりや砂、繊維くずが入り込み、時間がたつほど奥に押し込まれて落ちにくくなります。
  • :通常の本革と違って表面に塗膜がないため、水が毛の中に染み込みます。乾くと水分の境目が輪ジミとして残り、毛が寝て手触りも変わります。
  • 皮脂・油分:皮脂や整髪料、ハンドクリームなどの油分が付くと、毛が束になって寝てしまい、その部分だけ濃く見えたりテカったりします。靴のケア用品メーカーも、起毛革にミンクオイルを使うと「毛が寝てしまったり、濃いシミになる恐れ」があるとして推奨していません。

車のシートでは、運転席の座面の前寄り、背もたれの肩の部分、ドア側のサイドサポートなど、体が触れて擦れる場所に皮脂と摩擦が集中します。ここだけ毛が寝てテカリが出るのは、起毛革のシートに共通して起こりやすい変化です。

ヌバックの手入れ手順|ブラシ・消しゴム・スプレー

手入れの基本は「乾いた状態で払う」「こすらず優しく」「起毛革専用の道具を使う」の3点です。ここでは、靴・革小物のケア用品メーカー(コロンブス、サフィール日本公式)が公開している起毛革の手入れの流れを整理します。靴向けの手順のうち車のシートにそのまま使えない点は、次の章で補足します。

手順1:ブラシでほこりを払う

スエード・ヌバック専用のブラシで、毛足にたまったほこりを払い落とします。サフィールの手入れマニュアルでは、毛並みと逆方向にブラシをかけて汚れを浮かせ、寝てしまった毛やテカリが出た部分はナイロンと真鍮を組み合わせたスエードブラシで毛を起こすとされています。ただし真鍮ブラシは硬いため、毛足の短いヌバックでは特に力を入れすぎないことが大切です。

手順2:部分汚れは消しゴム型クリーナーで

黒ずみやこすれ跡のような部分的な汚れは、生ゴムやラバー製の「消しゴム型クリーナー」で、砂消しゴムのように表面をなでて落とします。力を入れると毛が切れたり色が抜けたりするため、ごく軽く動かし、車のシートでは目立たない場所で試してからにしてください。靴ケアの解説でも、力の入れ過ぎは起毛の毛羽立ちや毛切れを招くと注意されています。広い範囲の汚れには起毛革用の泡タイプやスプレータイプのクリーナーもありますが、同じく目立たない場所で色落ちや変色がないことを確かめてから使います。

手順3:栄養補給と補色は起毛革専用品で

靴やバッグでは、ヌバック・スエード用の無色スプレーで栄養を与え、色あせた部分は補色用のスプレーやマーカーで整えます。注意したいのは、通常の本革用のクリームやワックス、ミンクオイルを起毛革に使わないことです。クリームやワックスを使うと「起毛部分が寝てしまい風合いがなくなる」と革製品店の解説でも説明されています。

手順4:仕上げの防水スプレーと、その注意点

最後に起毛革対応の防水スプレーで仕上げます。コロンブスは自社の防水スプレーについて、水分だけでなく油分からも起毛革を守るものと説明しています(効果は各製品の表示によります)。同社のよくある質問では、「屋外で、靴やバッグから約20cm離して、全体にムラなくスプレー」し、「15〜20分以上乾かす」こと、濡れている状態では使わず十分乾かしてからスプレーすること、布製品では「色ムラやシミの可能性があるため、必ず目立たない箇所で試してから」使うことが示されています。

車のシートでは、この「屋外で使う」という条件が壁になります。車内は密閉空間で、スプレーの成分がガラスや内装の樹脂部分に付着するおそれもあるため、製品の注意書きと車の取扱説明書を先に確認し、迷う場合は自己判断で吹きかけず専門店に相談するのが安全です。

車のヌバックシートで気をつけること

車のシートは靴やバッグと違って取り外して洗えず、毎日体が触れ、夏は高温、冬は乾燥という環境に置かれます。ヌバックやヌバック調のシートを長持ちさせるには、次の点を押さえておきましょう。

  • まず素材を確かめる:本革のヌバックか、ヌバック調の合成皮革・ファブリックかで使えるクリーナーが変わります。取扱説明書やカタログの「シート表皮」欄を確認し、記載がなければ販売店に問い合わせます。
  • 汚れは乾いてから払う:飲み物や泥が付いたら、こすらずに乾いた布で押さえて水分を吸い取り、乾いてからブラシで払います。濡れたままこすると毛が寝て、汚れが奥に入ります。
  • 濡れタオルで拭かない:通常の本革の感覚で固く絞ったタオルで拭くと、輪ジミや毛の寝癖が残ります。水拭きが必要なときは目立たない場所で試すか、専門店に任せます。
  • 皮脂が付く場所を意識する:座面の前寄り・肩・サイドサポートは皮脂と摩擦が集中します。こまめなブラッシングで毛を起こしておくと、テカリの進行を遅らせやすくなります。

なお、車のシートには「ヌバック調」の合成皮革も使われています。たとえばシートメーカーのブリッド株式会社は2026年4月、「ヌバックのような触感を再現した」合成皮革「NUGRAIN(ヌグレ)」を表皮に採用したシートの発売を発表しています。こうした素材の手入れはメーカーごとに指定があるため、本革用の方法をそのまま当てはめないことが大切です。起毛していない通常の本革シートの手入れとの違いは https://www.starex-solutions.jp/archives/14130 で確認できます。

Starex 水性シートコーティングとの関係

Starex(スタレックス)は、本革・合皮・ファブリックの表面に透明な保護層をつくる水性のシートコーティングです。ヌバックなど起毛素材への可否は素材によって異なるため、認定施工店に素材名を伝えて事前に相談してください(詳しくは下のよくある質問)。

よくある質問

ヌバックとスエードはどっちが高級ですか?

一概にどちらが上とは言えません。ヌバックは革の表側(銀面)を使うため、銀面に傷の少ない原皮が必要です。一方、JLIA の用語辞典ではスエードは「傷などのため銀面の状態が良好でない原料を使用する場合が多い」と説明されています。ただし価格や品質は産地や仕上げ、製品の作りで大きく変わるため、「ヌバックだから高級」と決めつけないほうがよいでしょう。

ヌバックが雨に濡れたらどうすればいいですか?

こすらずに乾いた布で水分を押さえて吸い取り、直射日光や熱風を避けて自然乾燥させます。乾いたあとにスエード・ヌバック用のブラシで毛並みを整えると、寝た毛が戻りやすくなります。輪ジミが残った場合は、起毛革用のクリーナーを目立たない場所で試してから使うか、専門店に相談してください。濡れたまま防水スプレーをかけるのは避けます。

ヌバックのシートに市販の防水スプレーを使っても大丈夫ですか?

製品が「起毛革(スエード・ヌバック)対応」であることと、車内での使用に関する注意書きを確認してからにしてください。防水スプレーは屋外で約20cm離して使い、15〜20分以上乾かすよう案内されています。車内は密閉空間でガラスや樹脂への付着も起こりやすいため、換気や養生ができない場合は無理に使わず専門店に相談するのが安全です。使う場合も必ず目立たない場所で試してください。

ヌバックのシートにも Starex は施工できますか?

この記事では可否を断定できません。Starex は本革・合皮・ファブリックなど車のシートの表面に透明な保護層をつくり、色移り・汚れ・皮脂・整髪料などからシートを守る水性のシートコーティングで、施工は本部認定の技術講習を受けた認定施工店のみが行います。ヌバックのような起毛素材は表面が毛の集まりでできており、施工の適否は素材によって異なります。本革のヌバックかヌバック調の合成皮革か、素材名と現在の状態を伝えて、認定施工店に聞いてください。

【本記事の参考ソース】一般社団法人日本皮革産業連合会(JLIA)皮革用語辞典「ヌバック」(https://dictionary.jlia.or.jp/minnano/detail.php?id=753)/同「スエード」(https://dictionary.jlia.or.jp/detail.php?id=912)/同「ベロア」(https://dictionary.jlia.or.jp/detail.php?id=1663)/同「銀付き革」(https://dictionary.jlia.or.jp/detail.php?id=500)/株式会社山陽「起毛革③ 〜ヌバック革とは〜」(https://sanyotan.co.jp/note/brushedleather_03)/KAWANOWA「たくさんある革の種類 その5 革の仕上げについて 中編」(https://www.kawanowa.com/leathertype_shiage_2/)/ZUTTO「柔らかな印象のレザー素材、スエード・ヌバックの魅力」(https://www.zutto.co.jp/blog/category/howtouse/258)/株式会社コロンブス「スエードのお手入れ」(https://www.columbus.co.jp/how-to-care/suedecare/)/同「よくあるご質問」(https://www.columbus.co.jp/question_answer/)/Saphir 日本公式「お手入れマニュアル【スエード&ヌバック編】」(https://saphir-jp.com/manual/manual03/)/ShoesLife「スエードの汚れを確実に落とす方法」(https://shoeslife.jp/topics/suede_care02/)/ブリッド株式会社 プレスリリース「STREAMS CRUZ NUGRAIN 発売」(https://response.jp/release/prtimes/20260427/232024.html)

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